遊園地のナン
初めてナンを食べたのは、先日閉園した練馬区の某遊園地であった。
親戚のツテでよく入園券が手に入ったらしく、別にその遊園地の熱烈なファンという訳ではなかったものの、1年に一度くらいは訪れていたように思う。
その遊園地の外の売店で提供されていたのが、件のナンである。
インドカレーだと銘打つも、ネパール人なのかインド人なのかはわからないが、外国の方が店に立っており、その売店の周りには常にインドカレーの香ばしさが漂っていた。
なぜそこのナンを妙に覚えているのか。それは、ナンを焼く工程を目の前で観察できたためだ。
皆さんは、ナンがどのように焼かれるかをご存知だろうか。大抵のインドカレー屋では厨房は席から離れて存在するため、その様子を知ることは難しいと思う。しかしその遊園地のナンは外の売店であることから、調理工程が丸見えであった。
その光景は今でも記憶の片隅に保存されている。
生地をこね、おおよそ円状に成形した後、それを筒状のオーブンへ入れる。このオーブンというのがユニークである。箱型ではなく円柱の筒が縦に埋められたようである。その筒の内側部分へ生地を打ち付けるように貼り付け、熱を加えて焼き上げるのだ。一般的なナンが水の雫のような形状をとるのは、生地が叩きつけられたときに変形し、そのまま焼かれるためである。(もちろんそういう形を目指して成形もするのだろうが)
こうしてできたナンに、バターチキンカレーをセットにしていただく。思えばここでバターチキンカレーへの愛が芽生えたのか、今もインドカレー屋ではバターチキンカレーが好みだ。
ナンの話ばかりで恐縮だが、遊園地自体もなかなか楽しかった。しかし、一番はじめに思い出すのはナンで、アトラクションではない。
……というのも、その遊園地へ行きたがっていたのは、子どもたちより母だった(と思う)。ある時、なぜそこまで行きたいのか理由を聞いてみると、彼女は「思い出作り」と答えた。(同様の理由で、家族全員で劇場版ROOKIESを映画館へ観に行ったりもした。)
結局遊園地はなくなり、そこでの記憶は家族との団らんよりもナンである。「思い出作り」が成功したのかわからない。少なくとも、今もう一度同じ光景は見れないのは確かだ。
思い出とか家族なんてそんなものだ、と少し言い放してみる。……あぁ、ナンとバターチキンカレーが食べたい。それだけが残渣だから。